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東京大学2018年分析/三段論法活用

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以下は、2018/06/27(有料メルマガNo.30)「ふくしま式で東大の最新入試問題を解き明かす!」を転載したものです。

目次


【1】ふくしま式で東大の最新入試問題を解き明かす!

中学生でも読める東大入試問題文

まずは、東大2018年第一問の問題・解答などのPDFを、大手塾のサイトからダウンロードしてください。ここでは、河合塾のリンクを紹介しておきます。(現在リンク切れしています、あしからず)

東大前期日程入試問題(2018年)
http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/18/t01.html

これをお読みの方の中には、ふだん大学入試問題は指導していないという方も多いでしょう。まして東大なんて問題を解いたことすらない、という方もいらっしゃるかもしれません。でも、今回ご紹介する文章は、さほど難しいものではありません。具体例も豊富であり、中学生でも読めるレベルです。当塾の授業では中3にも与えました。
ですから、臆することなく、まずは文章を読んでみてください。東大って、こんなもんなの? と思うはずです(むろん、答案の質はどこまでも高められるため、競争は厳しくなるはずですが)。

今回扱うのは第一問のみ、その中の(三)と(四)のみです。それだけでかまいませんので、実際に記述してみてください。そのあとで読めばこそ、このメルマガの価値が生まれます。東大の解答用紙は決められた大きさの罫線の枠があるだけですので、文字数は厳密には決まっていません((四)のパターンを除く)。
ただ、おおむね60字程度というのが一般的なとらえ方になっています。ですから、(三)は60字程度で書いてみてください。さて、読み解いてみましたか? それでは、解説スタートです。

問題を解かせる前に「型」すなわち「目標」を意識させる!

ところで、当塾の授業における読解指導のパターンは、だいたい次のようになります。

1)問題を配付し、技術的ポイントを示す

今回はまず、(三)の型を事前に示しました。
━━━━━━━━
アはAではなくB
━━━━━━━━
これが基本の型です。
いつも授業冒頭で暗唱させている様々な型や鉄則の中に「違いの型」2つがあります。
━━━━━━━━
アはAだがイはB
アはAではなくB
━━━━━━━━
この2つです。今回は、この後者がぴったり当てはまっているということを、事前に意識化させました。ただし、傍線部を正確に形式化すると、次のようになります。
━━━━━━━━━━━━━
アはBであり、AではなくB
━━━━━━━━━━━━━
ここまで、事前に教えます。こうした指導なくして、授業とは言いません。もちろん、ぶっつけ本番で解かせることもありますが、それはテスト(あるいはテストに準じた場面)だけです。
型を事前に意識させるというのは、つまり、目標意識を持たせるということであり、ある意味、当たり前のことです。しかし多くの塾(あるいは学校)では、おそらくこうしたことをせず、いきなり問題を解かせ、だらだらと解説して終わりという授業をしているのでしょう。気をつけねばなりません。なお、当塾では(三)だけで100分、(四)だけで100分を使いました。2週間に渡り、じっくり指導したわけです。
技術的ポイントを指導したあとは、次の段階です。

2)時間制限をつけて問題を解かせる

今回は、全体を読み(三)を解き終えるまでの時間として、40分与えました。東大入試の国語は、文科の場合、大問4つに対して150分という異常に長い試験時間となっています。このうち50~60分ほどを第一問に充てるというのが一般的な戦略のようです。なお、当塾の今回の授業では、中3~高3の10名が対象でした。こうした学年も考慮し、解くのは小問1つだけですが40分という長めの時間を与えることにしました。ちなみに、2問目となる(四)は、1週目の解説・採点・返却等もすべて終わった状態で、2週目に取り組んでもらいました。1週間前の内容を思い出すために読み直す時間も含め、30分与えました。

3)採点及び個別指導は後回しにし、全体解説を行う

手元のノートに答案がある状態で解説を行ってしまうと、ときに答案を秘かに修正する子が出ます(50人に1人くらい)。しかし、そこはもう信頼するしかありません。事前に、何度か言います。「もう答案に手を加えないように。そんなことをしても、なんの役にも立たないからね。損をするだけだよ」
なぜ先に解説をするのか。先に解説をしておけば、個別指導の場面で同じことを何度も説明しなくて済むからです。また、生徒本人が自分の答案と正答とをくらべて、自分の答案のどこが良くてどこが悪いかをつかんだ状態になるため、その分だけ個別指導の理解が早くなるというのも理由です。

4)採点及び個別指導を行う

最後に、個々の答案を採点し、そのつど1人1人の生徒を個別指導用の机に呼び、アドバイスを行います。こうした流れが、当塾における読解指導の基本形となっています。

河合・東進・駿台・代ゼミの解答例との共通点・相違点を見つける

さて、今度こそ本当に解説スタートです。今回は、解説の段階で次のような内容のプリントを配付しました。ふくしま式「対比項目整理表」です。一挙、掲載します。

こうした表を、ほんの一部でもいいから自分で書きながら解くよう、私は日々生徒に指導しています。こうした表を作るということは、言いかえ(抽象化)の作業です。本文中の対比関係を抽出するわけです。(抽象化が基本ですが、同時に具体例もメモしておきます)
ここまで整理できてしまえば、記述はラクです。そこで、(三)です。

「フランス革命や明治維新が/抽象的概念であり、/それらが知覚ではなく、/思考の対象であること」とは、どういうことか。

「どういうことか」は言いかえ問題(鉄則5)。そして、傍線部はこのようにパーツ分けします(鉄則16:傍線部がパーツに分けられるなら、パーツごとに言いかえよ)。『国語読解[完全攻略]22の鉄則
さて、お待たせしました。答えです。今回は、大手予備校の模範解答もあわせて示します。

★福嶋の答え(63(77)字)

(フランス革命や明治維新などの)歴史的な出来事は、具体的・直接的に知覚できるものではなく、間接的に思考し関係づけられた抽象的な理論による存在であるということ。

★河合の答え(66字)

歴史的出来事は、具体的に知覚される個々の物ではなく、一連の事象を理論的に関連づけ、ひとまとまりの事柄として構成したものだということ。

http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/18/t01.html

★東進の答え(85字)

歴史記述の対象は、事物から具体性を捨象しつつ恣意的に関係づけて概念化したものであり、直接的な観察ではなく、理論的手続きを踏まえた構成体(「理論的存在」)であるということ。

http://www.toshin-kakomon.com/toudai/detail.php

★代ゼミの答え(65字)

歴史的事実は具体的事物によってではなく、歴史的な事象を相互に関係づける理論的探究という思考の営みを通して認識可能になるということ。

https://sokuho.yozemi.ac.jp/sokuho/k_mondaitokaitou/1/1290284_5340.html

★駿台の答え(59字)

歴史的事実は、過去の事象から知覚可能な具体性を捨象し、特定の視点に基づき出来事を関係づけていく思考の産物だということ。

http://www2.sundai.ac.jp/yobi/sv/sundai/sokuhou/sokuhou_D/1337464700859.html

授業でもこれらを示して共通点・相違点を見つけさせるなどしました。5つも解答例があれば、何が不可欠な言葉なのか、何が重要度の低い言葉なのかといった点を、生徒自らが見つけ出します。
まず見つかるのは、駿台を除く全ての解答が、「ではなく」で対比を明確にしているという点です。これだけでも、今回の冒頭で示した「目標」たる型がいかに重要かが分かります。
では駿台は型を無視しているのかといえばそうではありません。「捨象し」のところで意味上は否定しているのであり、同じことなのです。ただ、受験生に対しては、こうした答案の書き方は採点者の減点を呼び込むのでやめたほうがよい、と指導します。
次に、最も重要な点に気づかせる必要があります。それは、「関連づけ」「関係づけ」という言葉です。

福嶋解答 「関係づけ」
河合解答 「関連づけ」
東進解答 「関係づけ」
代ゼミ解答「関係づけ」
駿台解答 「関係づけ」

これは絶対不可欠な言葉ということになります。これをどうやって本文中から抽出するかと言えば、なんのことはありません、傍線部の直前に、「関係の糸で結ばれた事件や出来事」とありますから、ここを使うのです。そもそも、ここ(傍線部の直前)には最初から「ではなく」がありますから、それがかなり理解を助けてくれます。
しかし、当塾の中3~高3の生徒の多くが、この「関係づけ」を入れることができませんでした。これは、ひとえに「内容的知識」の不足からくる見逃しだと思います。つまり、次のことに対する意識が不足しているのです。
━━━━━━━━━━━━━━
思考とは関係づけのことである
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そもそも、そういうことなのです。でも、これ。ふくしま国語塾の生徒なら、毎日毎日教わっているはずなのでした。
「国語力とは論理的思考力である」「論理的思考力とは同等関係整理力、対比関係整理力、因果関係整理力である」すなわち、思考力とは関係整理力である。思考とは、関係づけることである――。
にもかかわらず、できなかった。これは、ちょっとしたショックでした(笑)。
生徒たちに、あらためてこれらの本質的事項を指導しました。こうした再認識の機会として、この東大2018年第一問は、実に有意義だと思いました。だからこそ、今号で取り上げているのです。
この文章の最大のポイントは、「思考」とは何かが分かっているかどうかということです。それさえ分かっていれば、さしたる苦労なく答案を書けます。
なお、次のような見方もできるとよいでしょう。
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関係づけ=体系化=ネットワークの構築
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ネットワークという言葉は、傍線アの3行あとと、傍線エの4行前に出てきます。体系は漢語、ネットワークは外来語。関係づけを「関わり」などにするならば、それは和語。こうした、和語・漢語・外来語の自由な往来をできるというのも、言いかえる力であると言えます。要は語彙力ですが、それぞれの言葉をバラバラに覚えていてもダメです。まさに「関連づけ」て覚えていなければ、「思考」に役立てることはできないというわけです。


【2】三段論法の型を東大入試に活用する

理由を問われたら思いつきで書かずに骨組みをまず構築!

さて、次に(四)です。

なぜ歴史的出来事の存在は/物語り的存在と言えるのか。

これは、言うまでもなく「たどる」設問です。因果関係整理です。そこで、前々号(No.28)で紹介した三段論法の型で整理してみることにします。次の「骨組み」をご一読ください。

骨組み:(①は③であり、③ならば②だから)
歴史的出来事の存在は、/史料批判や年代測定等により間接的に思考・探究した体系的理論に基づく存在であり、/それはすなわち「物語り」に基づいた存在だと言えるから。

120字にも及ぶ「理由」を思いつきで書いてしまうと、ぽろぽろとキーワードを落とした、本文の切り貼り答案(コピペ答案)になってしまいます。あくまで、こうした骨組みを構築してから肉づけするという意識が必要です。
そして、この骨組みをもとにして作成した私の解答例が、これです。再び大手予備校の解答例とあわせて、列挙します。

★福嶋の答え(112字)

歴史的出来事の存在は、知覚不可能で具体性・直接性のないフィクションなのではなく、知覚できずとも実在を確証するに足る「物語り」、つまり史料批判や年代測定等により間接的に思考・探究した体系的理論に基づいた存在であると言えるから。

★河合の答え(118字)

過去の歴史的出来事は、現在の我々からは直接的に観察できず、その存在は、我々が文書史料の記述や絵画資料、発掘物を理論的に検証する手続きを通じて、個々の事物を関連づけ、一つのまとまった出来事として構成することではじめて確証されるものだから。

http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/18/t01.html

★東進の答え(120字)

物理学や地理学における「理論的存在」と同様に、歴史的事実は過去のもので直接的な知覚が不可能であるため、歴史的出来事の実在を確証するためには、史料批判や発掘物の調査といった、「物語り」行為をもとにした理論的「探究」の手続きが不可欠であるから。

http://www.toshin-kakomon.com/toudai/detail.php

★代ゼミの答え(117字)

歴史的出来事の存在は直接的知覚では捉えられず、歴史上の出来事を具体的、客観的な史料に基づいて捉え、それらを「物語り」という意味的な連関によって互いに関係づける理論的探究を通して、初めてその本質を明らかにすることができる認識対象だから。

https://sokuho.yozemi.ac.jp/sokuho/k_mondaitokaitou/1/1290284_5340.html

★駿台の答え(120字)

歴史的事実は、物理学における理論的存在と同様、直接知覚することはできないが、史料や調査といった証拠に基づく理論的な探究を通じて、恣意的に捏造された虚構を排し、諸々の出来事を特定のコンテクストにおいて再構成した物語りとして実在するものだから。

http://www2.sundai.ac.jp/yobi/sv/sundai/sokuhou/sokuhou_D/1337464700859.html

この問いのポイントは、因果関係の骨組みの構築を除けば、あとは「物語り」をどう言いかえるかということになるでしょう。ただ、幸いなことにこの文章はそれを比較的はっきりと示してくれています。 第1段落も役立ちますし、6ページ6行目の「理論を物語りと呼び換えるならば」も有益ですし、また、先に触れた傍線エの4行前にある「物語りのネットワーク」も有益です。このあたりを意識すれば、得点は高まります。
なお、100字を超えるような記述では、たいていの場合、具体的な要素を少し入れることが許容されます。次のようにです:

福嶋解答 「史料批判や年代測定」
河合解答 「文書史料の記述や絵画資料、発掘物」
東進解答 「史料批判や発掘物の調査」
代ゼミ解答「史料」
駿台解答 「史料や調査」

こうして見ると、許容どころか、「史料」は不可欠な言葉であるとも言えるでしょう。

ところで、みなさん。駿台の解答だけ、なんだか異質な気がしませんか? 実は、ちょっとだけハイレベルなのです。「諸々の出来事を特定のコンテクストにおいて再構成した物語り」という部分です。たしかに、傍線部の直前に「コンテクスト」という言葉が出てきますが、これをちゃんと解釈した上で駿台のように答案に生かすというのは、並の受験生にはできません。この解答例は、テクスト論をよく分かった人間が作ったのです。テクスト論については、ここであらためて説明することはしません。あるいは、下記の本の「テクスト」「コンテクスト」の項目をチェックしてみてください。
高校生のための評論文キーワード100』中山元・ちくま新書

少しだけ解説しますと、テクストとはそもそも、「織り物」の意味を持ちます。それはまさに「物語り」を編み込んでいくイメージに重なります。こうしたイメージをつかんでいればこそ、駿台の解答が生まれたのだと私は思います。

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