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慶應義塾湘南藤沢中等部2023年分析/作文課題

(まず、課題をこちら(ABEMA Times)でチェックしてください)

今回の課題文(セリフ)は、次のような内容で構成されている。

  • 前提① 甘いものを食べる → 肥満や生活習慣病になる
  • 前提② 課税して価格を上げる → 国民が健康になる
  • 結論  甘いものには課税すべきである

こうした因果関係の不備を突くことを、問題は求めている。
方法としては、次の2つとなる。

  • 前提そのものの不備を指摘する
  • 論証(前提→結論)の不備を指摘する

今回の課題文は口語体で書かれており、論証の不備(因果関係の飛躍)がないとは言えないものの、前提さえ正しければこの論証は基本的に成立するはずである(だからこそ騙されやすい)。
そこで、今回ツッコミを入れるべきは「前提そのもの」だということになる。
いま今回と書いたが、正直、今回に限ったことではない。一般に、論破系youtuber、あるいは最近はやりのChatGPTなどに騙されてしまうのは、ひとことで言えば「知識不足」が原因である。前提の内容的不備を指摘できないと、論証の形式(要は言い回し)に不備さえなければ、騙されてしまうわけだ。
そういう意味で、この慶應湘南藤沢中の課題はどちらかと言えば「知識」を問うている感があり、純粋な思考力を問う良問である、とは言えない。しかし、慶應という学校はその大学入試小論の重厚さを考えてみても総合的な能力を試そうとする傾向にあり(慶應大学は入試科目に国語がなく小論のみである)、「純粋な思考力」を試す意図など最初からないのだろうから、まあそれはそれで学校の特色であると理解するしかないだろう。まあ実際、知識と思考技術を完全に切り離すことは不可能であり、結局のところ知識量と思考力は相関するのである。

さて、前置きが長くなった。最も標準的と思われる正答例を示しておこう(福嶋による解答例)。

課税して値段を上げれば自然に健康が増進されるという理屈には無理がありますね。ここには「課税すれば買う人が減るはず」という前提がありますが、どんなものであれ、本当にそれが好きな人は、たとえ値段が上がってもそれを買うはずです。たばこをやめられない人は、たばこ税をちょっと上げたくらいでは、吸うのをやめません。それと同じです。(160字)

これは、先の前提②をもとにした答案である。
【前提② 課税して価格を上げる→国民が健康になる】
この前提は、もう少し正確に「たどる」と、次のようになる。
【前提② 課税して価格を上げる→買わなくなる→国民が健康になる】
この「価格を上げる→買わなくなる」という部分を突いたわけだ。この程度であれば、小学6年の受験生が限られた時間(5分程度)でなんとか思いつく範囲だと言えるだろう。これも先に述べた「知識」ではあるが「体験的知識」でクリアできる。だから「最も標準的」と述べたわけだ。

もちろん、前提①「甘いものを食べる→肥満や生活習慣病になる」にツッコミを入れてもよいが、手こずるだろう。なぜなら、課題文中で先手を打ってあるからだ。この前提に対するツッコミとしては、「量や種類にもよるだろう」「甘いものは栄養になるはずだ」といった内容が考えられるが、「どう見てもいけないなぁと思うような品目だけでいい」「生育に必要な部分もあるでしょう」という文言で先手を打たれているため、あまり説得力を持たない(これらだけ書いても減点されるだろう)。まあ、「人工甘味料なら平気だろう」とか「白砂糖と黒砂糖は違う」とか、より具体的な「知識」を武器にするのも面白いかもしれないが、前提そのものを壊せる骨太な反論であるとは言えない。

それでもこの前提①を使いたい場合は、ABEMA TVの中で成田修造氏が述べているような内容に持っていく必要がある。それは、「生活習慣病や肥満の原因は甘味物の接種以上に食事量の多さ、運動量の少なさに起因する可能性がある」という部分だ。要は、「ほかにもっと原因があるでしょ」あるいは「ほかにもっと(予防の)手段があるでしょ」というわけだ。

せっかくだから、より詳しく説明しておこう。前提①をもっと「論破」したいなら、その「対偶」を否定すればよい。「AならばBである」とき、「BでないならAでない」を「対偶」と呼ぶ。ある命題が真のとき、対偶も必ず真になる。次のアが命題(前提①)。イは対偶である。

  • ア 甘いものを食べる → 肥満や生活習慣病になる
  • イ 肥満や生活習慣病にならない → 甘いものを食べない

イはこういうことだ。「肥満や生活習慣病にならないならば、甘いものは食べていないはずだ」。でも、こう聞くと「え? そうかな?」と思うだろう。そこで、こう思いつく。「肥満や生活習慣病にならない人で、甘いものを食べている人も多いだろう(たとえばよく運動している人とか)」。こう考えれば、対偶を否定できるので、同時に命題(前提①)も否定できることになる。

ただ、この課題文の話者は、前提①が「絶対だ」と言い切っているわけでもないので(「だいたい」などとボヤかしているし)、ここまでやると逆に墓穴を掘るかもしれない。

とはいえ、この「逆・裏・対偶」は、小学生でも慣れれば使いこなせる論理だから、練習するとよい。具体例は『ふくしま式で最難関突破! 男女御三家・難関校 中学入試国語を読み解く』にも載せているので、参照してほしい(上図もここから引用)。なお、この「逆・裏・対偶」は、2021年の洗足学園中学校入試問題(第1回 国語)で、もろに出てきているので、そちらも要チェックである。

ところで、先の標準解答例で注目してほしい点がある。それは「たばこ税」を例示した点である。これは、ふくしま式で言えば同等関係整理(具体→具体)だが、要は「類推」である。この「類推」の能力を試す課題は、慶應義塾湘南藤沢中等部の過去問にけっこう出てきている(下記)。その意味でも、今回の課題に対し「たばこ税」などを例示して説明した受験生は、高評価を得ることができたはずだ。

アイスクリームがおいしいと感じられるのはなぜでしょうか。その理由を、クリームと比較しながら考えて、百字以内で書きなさい。答える際には、同じ理由でよさを感じさせる別のものを挙げながら、あなたの考えを補強すること。

慶應義塾湘南藤沢中等部入試問題(2009年)より

この中の、「同じ理由でよさを感じさせる別のものを挙げる」プロセスが、まさに類推である。

(谷川俊太郎の詩「うつろとからっぽ」を読んで)「うつろ」と「からっぽ」のように、「似ているようで違」うことばを挙げ、その違いを百字以内で説明しなさい。

慶應義塾湘南藤沢中等部入試問題(2014年)より

「~のように」と言っている時点で、同等関係(具体→具体)を求めている。具体から具体を見出すのは直観にも似たひらめきが求められるが、ひらめきが苦手な子は、間に抽象を入れ、「具体→抽象→具体」という形で「思考」していけばよい(鉄則15「比喩は〈具体〉である。まず抽象化せよ」参照:『国語読解[完全攻略]22の鉄則』福嶋隆史)。

「お金」の機能について、以下のようにまとめました。(略、90字ほど)
「お金」の例を参考にして、「文字」の機能について説明しなさい。

慶應義塾湘南藤沢中等部入試問題(2020年)より

これも、言うまでもなく「類推」の能力を求める課題である。

ということで、慶應湘南藤沢はこの手の問いが好きなのだ。慶應大学入試小論文でもこうした課題はよく見られる。つまり慶應が好むパターンなのだ……と言いたいが、それは実は当然のことである。なぜなら、類推は、本質的な思考力のひとつだからである。指導の詳細1に短くまとめているので、ぜひチェックしてほしい。

それにしても、こういう解説を聞くと「わが子には到底無理」などと思うだろう。実際、今回の課題についても、「甘いものはおいしくて、食べていて楽しいから、よい点もある」とか、「辛いものも一緒に食べれば大丈夫」とか、奇妙な答案を書く子がいただろうし、論理以前の話だと思うのも無理はない。しかし、知識と技術を習得する以外に手はないのだから、あきらめずに(あるいはいったんあきらめてから開き直って)がんばってほしい。

以上、2023/03/06の書き下ろし記事でした。

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